「ロボットと共生する生活空間デザインの研究」

1.研究開始当初の背景

日本は高齢化と核家族化が同時に進行し、2030年には37%が1人暮らしとなり、そのうち40%が65歳以上の高齢者となる、とする恐ろしい予測が出ている。実際、高齢者や単身者の孤独死も近年、増加の一途をたどっている。ロボットと共生することで得られるメリットは、セキュリティや癒し、コミュニケーションなど様々な内容が考えられる。例えば、ロボットと共生することで、セキュリティを向上させ、孤独死を防ぐことも実質的には可能である。人間がロボットと快適に共生できる生活空間を創造するためには、ロボットと人との物理的な関係性を明らかにし、人間―環境(ロボット・生活空間)系の新しいデザインを明らかにする必要がある。しかし、研究開始当初、こうした視点での研究はまだ少なかった。

2.研究の目的

本研究は、ロボットと共生する生活空間とはどのようにデザインされることが望ましいか、を明らかにするために、人とロボットの関係性、特にロボットの人間に対する個体距離に着目し、ロボットと共生するためのパーソナルスペースについて研究するとともに、ロボットと共生する生活空間のデザインおよびロボットそのもののデザインについて探究することを目的としたものである。

3.研究の方法

本研究は、Ⅰ.人間―ロボットの関係性に関する研究、Ⅱ.ロボットと共生する生活空間デザインモデルの構築、Ⅲ.ロボットと共生する生活空間のユーザビリティ評価・サービスに関する研究の3本柱で進められた。 Ⅰ.では、成人および高齢者、児童、外国人を対象に、生活空間内でよく使うと考えられる静止姿勢及び歩行状態において、それぞれロボットに対してこれ以上近づいて欲しくないと感じる距離を調査し、ロボットに対する距離関係を導き出した。Ⅱ.では、実際にロボットと共生する模擬生活空間「スマートアゴラ」および「スマートリビング」を構築し、Ⅲ.では、それらを用いてロボットと共生する生活空間およびロボットのサービス、デザインに関するユーザビリティ調査を行った。

4.研究成果

Ⅰ.人間―ロボットの関係性に関する研究においては、成人および高齢者、児童(幼児)、外国人を対象に、小型・中型移動ロボットに対する個体距離やロボットと共生する空間の適正規模、ロボットのデザイン等について実験を重ねた結果、有用な結果を得ることができた。 例えば、小型移動ロボットに対する「これ以上近づかれたくない距離」について、

成年では、

・ロボットに対する個体距離は円形に近い形となり、直径3m前後の距離をとると考えられる

・「接近角度」「速度」の距離に対する影響は男女によって異なる傾向が求められた 高齢者では、

・前方向に距離をとる傾向がある

・ロボットに対する個体距離に、立位では速度、椅子座位では接近角度に対して僅かに影響がある

幼児では、

・前方向に距離をとる傾向がある

・ロボットに対する個体距離に、立位、床座位ともに速度による影響が僅かにある

・高さ600[㎜]、900[㎜]のカバーを装着したロボットに対する個体距離に、大きさ・接近角度が与える影響は大きくない

・「立位」における小型移動ロボットの速度の変化の実験では、幼児、成年、高齢者の接近限界距離を比較すると、幼児は成年よりも短く、高齢者と同等又は少し短い個体距離をとる などの知見が得られた。(図1,2)

図1、2

Ⅱ.ロボットと共生する生活空間デザインモデルの構築では、実寸大の「スマートアゴラ」及び「スマートリビング」を構築した。「スマートアゴラ」は建築・ロボット・情報技術の融合を目指し、イス型ロボットが収納できるインフィル(壁)でありながら人が集まり様々な情報を見て共有することができる場所:アゴラ(空間)を創造した。(図3)スマートアゴラでは、空間を使う人に対してイス型のロボットが近づいていける設計とした。(図4,5)つまり、全方向移動が可能となるよう4つの車輪にオムニホイールを採用した。アクチュエータの選定には、歩行者の後をついていけることを目標として、人間の標準的な歩行速度1.0m/sを実現できるものを選択した。また人が座ることを考慮すると、オムニホイール単体では荷重を支え切れないため、移動を妨げることなく着座時だけに機能する補助脚をバネとリニアスライダによって簡潔に構築した。スマートアゴラ内に利用者が入るとイス型ロボットは所定の動作を自動で始める。従って制御が必要である。イス型ロボットに必要とされる運動は、スマートアゴラ内の利用者へ適切なサービスを行うべく、然るべき場所へ移動することが第一目標となる。そこで、人物・ロボット位置をカメラ画像より取得し、その結果に基づいてロボットが移動すべき軌道を生成することとした。(図6)「スマートリビング」では、「スマートアゴラ」を発展させたかたちで、未来のリビングルームのモデル構築を目的として、利用者の用途に応じてシーンや機能を変化させ、最大限利用者ニーズに応えることができる居住空間を目指した。そのため、利用者の座席や壁面の棚が必要に応じて自動的に提供され、必要のない時には壁に収納されることを想定し、ロボットチェア、インフィルを開発した。(図7,8)スマートリビングは、模擬的なリビングルーム空間として構築するために、3面のインフィル(内装壁)を計画した。3面のインフィルにはそれぞれプロジェクターが投影できるように設計した。(図8)

図7、8、9

壁面には白色の塗料を塗り、プロジェクターの映像が映りやすいよう工夫した。 ロボットチェアは、全方向移動可能を実現しつつ、椅子としての機能を損なわないように荷重分散機構を導入した。ロボットチェアは、スマートリビングに備え付けられたカメラからの空間内情報に基づいて制御され、スマートリビング内に利用者が入ると自動的に現れ、利用者がリビングスペースを退出すると収納場所へと戻っていく。スマートリビング内に設置されたインフィルは、壁としての役割はもちろんのこと、利用者への情報提供や、ロボットチェアの収納といったIT(情報化)技術とRT(ロボット化)技術を「壁」としての役割に付加している。そのIRT 技術の1 つとして、利用者のニーズに応じて自動開閉する知能的な収納を設計した。スマートリビング内に設置されたカメラ画像から利用者の状況を認識し、利用者がリビングルームに入ると、収納ボックスが自動開閉し、時にはサイドテーブルとして利用することが可能となるように設計した。(図9)天井に設置した魚眼カメラを用いて、環境情報を処理・計算した。User Datagram Protocol によるネットワーク通信により、利用者及びロボットの位置情報をロボットチェア用PC に送信できるよう計画した。 またⅢ.ロボットと共生する生活空間のユーザビリティ評価・サービスに関する研究では、「スマートアゴラ」や「スマートリビング」の被験者による評価を実施した。 特に「スマートリビング」に対しては、被験者42名から有効な回答を得た。そのうち86%の方が「おもしろかった」と回答した。「コンセプトにあっていたか?」の質問には、81%の方が「はい」と回答した。「実際に使ってみたいか?」の質問には、約60%の方が「はい」と回答し、約33%の方が「いいえ」と回答した。 また、小型や中型ロボットを対象とした実験では、実験後に各被験者に対して、従来のロボットに対するとらえ方や今後のロボットのニーズを明らかにするために、今後どのような機能や仕様を求めているか?などのアンケート調査を行った。 その結果、成年男子では、コミュニケーションや会話をしてくれて、日常の生活を支えるパートナーになることが望まれていること、成年女子ではロボットに対してコミュニケーションや会話といった機能よりも見た目や形態などを重視する傾向があること、高齢者ではロボットに親しみを持ち、日常生活でのロボットのサポートを期待していること、幼児からは「一緒に暮らしたいロボット」の大きさが高さ約30㎝、幅約20㎝程度の可愛いロボットを好む傾向にあること、全体的に動物(4足歩行)のモチーフを好む傾向にあることなどの知見が得られた。

図9

天井に設置した魚眼カメラを用いて、環境情報を処理・計算した。User Datagram Protocol によるネットワーク通信により、利用者及びロボットの位置情報をロボットチェア用PC に送信できるよう計画した。 またⅢ.ロボットと共生する生活空間のユーザビリティ評価・サービスに関する研究では、「スマートアゴラ」や「スマートリビング」の被験者による評価を実施した。 特に「スマートリビング」に対しては、被験者42名から有効な回答を得た。そのうち86%の方が「おもしろかった」と回答した。「コンセプトにあっていたか?」の質問には、81%の方が「はい」と回答した。「実際に使ってみたいか?」の質問には、約60%の方が「はい」と回答し、約33%の方が「いいえ」と回答した。 また、小型や中型ロボットを対象とした実験では、実験後に各被験者に対して、従来のロボットに対するとらえ方や今後のロボットのニーズを明らかにするために、今後どのような機能や仕様を求めているか?などのアンケート調査を行った。 その結果、成年男子では、コミュニケーションや会話をしてくれて、日常の生活を支えるパートナーになることが望まれていること、成年女子ではロボットに対してコミュニケーションや会話といった機能よりも見た目や形態などを重視する傾向があること、高齢者ではロボットに親しみを持ち、日常生活でのロボットのサポートを期待していること、幼児からは「一緒に暮らしたいロボット」の大きさが高さ約30㎝、幅約20㎝程度の可愛いロボットを好む傾向にあること、全体的に動物(4足歩行)のモチーフを好む傾向にあることなどの知見が得られた

5.主な発表論文等

〔雑誌論文〕(計10件)

①矢坂亜美,渡邊朗子「幼児の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究-ロボットと共生する生活空間の計画技術に関する研究 4-」日本建築学会計画系論文集 2014年3月号, 第78巻 第689号, pp.1487-1494, 2014.3

②酒井雅子,渡邊朗子「高齢者の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究-ロボットと共生する生活空間の計画技術に関する研究 3-」日本建築学会計画系論文集 2013年7月号, 第78巻 第689号, pp.1487-1494, 2013.7

③ Saori Nakajima, Akiko Watanabe “Personal space small mobile robot moves towards crouching, sitting, and supine adult males” Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, July. 2013. Volume 7, No. 7(Serial No. 68), pp.698-703

④ Masako Sakai, Akiko Watanabe “Personal space small mobile robot moves towards standing or sitting elderly individuals” Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, Jun. 2013. Volume 7, No. 6(Serial No. 67) ,pp.827-832

⑤ Miyu Aoki, Akiko Watanabe “A Study on Individual distance a small mobile robot moves towards adult male and female, The case of standing and seating position” Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, May. 2013. Volume 7, No. 5 (Serial No. 66), Volume 7, No. 5 (Serial No. 66), pp. 585-590

⑥ Kodai Yokoyama, Akiko Watanabe “A Study on feelings of worriment due to middle-sized robot in living space” Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, Apr. 2013, Volume 7, No. 4 (Serial No. 65), pp. 409-413

⑦Shun Ota, Akiko Watanabe “A Study on Individual Distance A Small Robot Moves Towards Non-Japanese Adult Male” Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, Mar. 2013, Volume 7, No. 3 (Serial No. 64), pp. 323-327

⑧Akiko Watanabe, Yoshitaka Mikami “Architectural Planning living with robotics”, Journal of Civil Engineering and Architecture, USA, Jan. 2013, Volume 7, No. 1 (Serial No. 62), pp.20-26

⑨青木美優,渡邊朗子「成年女子における立位と椅子座位の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究-ロボットと共生する生活空間の計画技術に関する研究 2-」日本建築学会計画系論文集 2012年4月 第77巻 第674号,pp.767-774

⑩青木美優,渡邊朗子「成年男子における立位と椅子座位の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究-ロボットと共生する生活空間の計画技術に関する研究 1-」日本建築学会計画系論文集2011年6月第73巻, 第632号, pp.1093-1100

〔学会発表〕(計32件)

① 本間昂, 岩井将行,渡邊朗子,中島克人,"机上オブジェクトの配置操作によるマルチプロジェクション制御システム",情報処理学会第76回全国大会, 5E-1, 2014-3.

② 小川良平・渡邊朗子「受付空間におけるロボットに対する対面距離に関する研究」日本建築学会第36回情報システム利用技術シンポジウム論文集(報告), 日本建築学会、No.145-148, 2013.12

③ 青木美優, 渡邊朗子, 遠田敦「室の広さがロボットへの個体距離に及ぼす影響に関する研究」日本建築学会大会学術講演梗概集2013年,E-1分冊,p.609-610

④酒井雅子, 渡邊朗子, 遠田敦「ロボットに対する馴化を考慮した人とロボットの個体距離に関する研究」日本建築学会大会学術講演梗概集2013年,E-1分冊,p.613-614

⑤中島早織, 渡邊朗子, 遠田敦「居住空間におけるロボットのカバーデザインについての素材と表情に対する個体距離の研究」日本建築学会大会学術講演梗概集2013年,E-1分冊,p.615-616

⑥ Saori Nakajima, Akiko Watanabe “Personal space small mobile robot moves towards crouching, sitting, and supine adult males” The 9th ISAIA (International Symposium Architectural Interchanges in Asia), A-2-6 p1-4,2012.10, Gwangju, Korea

⑦Kodai Yokoyama, Akiko Watanabe “Study on feelings of worriment due to middle-sized robot in living space” the 9th ISAIA (International Symposium Architectural Interchanges in Asia), A-7-4 p1-4,2012.10, Gwangju, Korea

⑧Miyu Aoki, Akiko Watanabe “Individual distance a small mobile robot moves towards adult male and female, The case of standing and seating position” The 9th ISAIA (International Symposium Architectural Interchanges in Asia), A-8-1 p1-4,2012.10, Gwangju, Korea

⑨ Shun Ota, Akiko Watanabe “Individual Distance A Small Robot Moves Towards Non-Japanese Adult Male” The 9th ISAIA (International Symposium Architectural Interchanges in Asia), A-8-6 p1-4,2012.10, Gwangju, Korea

⑩ Masako Sakai, Akiko Watanabe “Personal space small mobile robot moves towards standing or sitting elderly individuals” The 9th ISAIA (International Symposium Architectural Interchanges in Asia), A-6-5 p1-4,2012.10, Gwangju, Korea

〔図書〕(計1件)

① 渡邊朗子 他、彰国社、建築のサプリメント、2013、pp.1-200

〔その他〕

ホームページ http://www.a.dendai.ac.jp/kaken/robot/

6.研究組織

(1)研究代表者 渡邊 朗子(WATANABE Akiko) 東京電機大学・未来科学部・准教授  研究者番号:80286632

(2)研究分担者  中村 明生(NAKAMURA Akiko) 東京電機大学・未来科学部・准教授  研究者番号: 00334152 岩瀬 将美(IWASE Masami) 東京電機大学・未来科学部・准教授  研究者番号:50339074   中島 克人(NAKAJIMA Katsuto) 東京電機大学・未来科学部・教授  研究者番号:00385486